Motherの夢

モナドリーム/単夢譚_09

1.

南米のとある村の病院にいくと
その前には
『日本人部分』
と呼ばれている敷地があって
そこには大銀杏が
むらがりはえています。

ところが
最近私は
たいへんな事実に
気がついたのです。

ほら、これが
現在の写真です。
大銀杏がみえるでしょう?
落雷にでもあったのか
枝が折れてしまってますね。

しかしほら
こちらが数年前に撮った写真ですが
大銀杏は
影もかたちもみあたりません。
いったい数年で
これだけの大きさの銀杏が
成長するものでしょうか?


2.

数年前のこと
この病院に
三人の日本人患者がかつぎこまれました。
若い女性が一人と若い男性が二人でした。

病院のベッドでは
ちょうど院長の奥さんと2号とが
蹴り合いのケンカをやっていたのですが
これらの日本人患者は
そんな騒ぎなどふきとばしてしまう大さわぎを
この病院にもたらしたのです。……

彼らは、グッタリとした様子でした。
まず、娘が裸にされベッドに寝かせられました。
すると、その全身には
コイン大のにきびのようなできものが
吹き出していました。

つづいて
二人の若者が裸にされ
寝かせられましたが
彼らも同じような症状を呈していました。

……しかし
外部的な症状はこれだけでしたが
本当に驚くべきは
その内部的な症状にありました。

彼らの体からは
動物性アミノ酸が
すっかりなくなっていたのです。
あれもない、これもない……とつぶやきながら
医師は小皿にアミノ酸を調製していました。


私が
「このぶんでは
彼らは一週間は人間の形を留めておりました。
しかし、それ以後はどう見ても植物に……」 
とつぶやくと
彼はそっと指でくちびるを押さえて
私を制しました。
うつむきになった若い娘の目には
涙が溜まっていたようでありました。


3.

南米には
スイカにとりついて人を銀杏化する
ペナガランという病気がある。

この病原体は
ふつうの人の目には見えないが
鉱物のようなかたちで
群れをなしてカラカラと
野原をかけまわり
スイカがおちていると
それにサッとはいりこんで
犠牲者を待つのです。

さて
とあるよく晴れた暑い日のこと
三人の日本人が
このペナガランのふきまわる野原を
歩いていました。
若い女性一人と
若い男性二人です。

かれらは
日の照りつづける野原を長く
歩いていたので
とてものどが
かわいていました。

一人の男性が
ビールでも飲みたいなァと思って
目の前をみたとき
そこにスイカのきれはしが
おちていました。

けれどそれは
とってもまずそうだったので
三人はそのまま
とおりすぎてしまいました。

すこしゆくと
またスイカのきれはしが
おちていました。
こんどは一人の男性が
すこしかじってみたけれど
とてもまずくて
食べられるものでは
ありませんでした。

しかしさらにゆくと
またスイカのきれはしが
おちていて
今度はほんとうに
おいしかったので
三人で
それをぜんぶ
食べてしまいました。

おしまい