にゅうにゅうを見た話

モナドリーム/単夢譚_01

ある人たちは、山で
にゅうにゅうという
権威者のような動物の姿を見かけたことがあるという。

この動物は
風のつよいある日
黄金色の雲が山の峰を吹きわたり
木々のこずえが赤銅色に輝くある日
そして、お日さまと、沈む青空と
吹きわたる雲が激流のようにあたりをうめつくすある日に
現れることがあるという。

にゅうにゅうは、とても大きく
あるときには、山そのもののように見えたという。
吹きわたる風に、全身をとりまくダイヤのような毛なみが流れて
それは、風そのもののようにも見えたという。

目の光は、強く、またやさしく
なにかを静かに考えているように
また、永遠の星の輝きはじめる瞬間のようにも見えたという。

口はしっかり閉じ
耳は風と身体の線にそって流れ
顔は、膨大な流れとなっていつのまにか見あげるような身体となり
峰をわたり、うねり
またいつのまにか、夜の闇に消えていた。

その声は、吹きすさぶ風に消えるようでもあり
また、無限の沈黙に、深い深い響きをともなって共鳴しているようでもあり
また、山そのものが鳴っているような
山のすべての生き物に呼びかけるような……。

にゅうにゅうを見た人は
奥深い森
圧倒的な山の存在
そして風とともに、暮れゆく空とともに
なにかを考え
考えが風に流されて森にしみわたり
木々に吸いこまれ、またはき出されて
すべてがひとつの流れであることを感じたという。

にゅうにゅうを見た人は
心が厳粛になって
なにかしら考え深げな人になったという。

にゅうにゅうがいることを知る人は少ない。
でもそれは、いつも山とともに、森とともにいて
ある特別な日に
また、権威者のようなその姿を現すのかもしれない。