ある人たちは、山でにゅうにゅうという権威者のような動物の姿を見かけたことがあるという。 この動物は風のつよいある日黄金色の雲が山の峰を吹きわたり木々のこずえが赤銅色に輝くある日そして、お日さまと、沈む青空と吹きわたる雲が激流のようにあたりをうめつくすある日に現れることがあるという。 にゅうにゅうは、とても大きくあるときには、山そのもののように見えたという。吹きわたる風に、全身をとりまくダイヤのような毛なみが流れてそれは、風そのもののようにも見えたという。 目の光は、強く、またやさしくなにかを静かに考えているようにまた、永遠の星の輝きはじめる瞬間のようにも見えたという。 口はしっかり閉じ耳は風と身体の線にそって流れ顔は、膨大な流れとなっていつのまにか見あげるような身体となり峰をわたり、うねりまたいつのまにか、夜の闇に消えていた。 その声は、吹きすさぶ風に消えるようでもありまた、無限の沈黙に、深い深い響きをともなって共鳴しているようでもありまた、山そのものが鳴っているような山のすべての生き物に呼びかけるような……。 にゅうにゅうを見た人は奥深い森圧倒的な山の存在そして風とともに、暮れゆく空とともになにかを考え考えが風に流されて森にしみわたり木々に吸いこまれ、またはき出されてすべてがひとつの流れであることを感じたという。 にゅうにゅうを見た人は心が厳粛になってなにかしら考え深げな人になったという。 にゅうにゅうがいることを知る人は少ない。でもそれは、いつも山とともに、森とともにいてある特別な日にまた、権威者のようなその姿を現すのかもしれない。