ベネチアに沈む陽

モナドリーム/単夢譚_29

そのホテルには
大きな窓のあいた
ガランドウの部屋があって
部屋のまんなかには
八段くらいの大きな階段が
真っ白の大きな階段が
おいてあった

その階段の最上段にのぼって
西の窓を見ると
ベネチアに沈む陽が
美しく見える
さっそく私は
仲間を呼びにやった

そらーあんた
えーとこに気づきなはった
こっからの落日は最高やわー

ホテルの人がいう

やがて陽が沈む
私は
ドイツ人の友人のカールから
借りてきたカメラで
さかんにシャッターを切った
しかし
陽は
べつにとりたてていうほどのこともない
普通の夕陽である……

とうとう完全に
陽が水の下に沈んでしまったとき
私は騙されたと思った
ところが
変化はそのあとで起こったのだ…

まず水面に
大きな泡が
いくつももりあがってきた
それは
美しい水色とも
ムラサキ色ともつかぬ色で
やがて
たくさんの泡が重なりあって
ぶどうの房のようになり
それから
泡でできた大きな球体となった
と思うまもなく
この球体は
さらに大きくふくれあがって
大気中へ拡散した
するとあとには
幾本かの泡の柱がのこり
またそこへ泡が集まって
球体となり
拡散し……
このようなスペクタクルが
しばらく続けられた……

ふと気づくと
窓際いっぱいに
水が
ヒタヒタとうち寄せている

急に船が動きはじめた
蛇行して
運河を通りすぎる

今日のねぐらに還るのだ……