輝く闇/コメント 15〜18

*15  ここの個所は、ある医者の告白として書かれていて、中山省三郎訳(角川文庫版)では、次のとおりです。
『わたしは人類を愛しているけれど、自分でもあさましいとは思いながら、一般人類を愛することが深ければ深いほど、個々の人間を愛することが少なくなる。空想の中では人類への奉仕ということについて、むしろ奇怪なほどの想念に達して、もしどうかして急に必要になったら、人類のためにほんとに十字架を背負いかねないほどの意気ごみなのだが、そのくせ、誰かと一つ部屋に2日といっしょに暮らすことができない。それは経験でわかっておる。相手がちょっとでも自分のそばへ近寄って来ると、すぐにその個性がこちらの自尊心や自由を圧迫する。それゆえ、わたしはわずか一昼夜のうちに、すぐれた人格者をすら憎みだしてしまうことができる。ある者は食事が長いからとて、またある者は鼻風邪を引いていて、ひっきりなしに鼻汁(はな)をかむからといって憎らしがる。つまりわたしは、他人がちょっとでも自分に触れると、たちまちその人の敵となるのだ。その代わり、個々の人間に対する憎悪が深くなるに従って、人類全体に対する愛はいよいよ熱烈になってくる』

*16 しかし、『全人類への愛』でもまだ中途半端で、究極は、『宇宙の全存在への愛』なんでしょう。ただ、さすがに、ここにくると、その中身がまったくからっぽであるというのは、だれにでもすぐわかりますが……『全人類への愛』の段階ですと、その中身が実はからっぽということがなかなか気付かれないので、その点はやっかいです。

*17 カント『判断力批判』篠田英雄訳、岩波文庫版の上巻186ページより。『そこで我々は、崇高を次のように説明することができる。崇高とは、(自然における)或る種の対象即ちその表象が[感性においては]到達せられ得ないような自然を理念の表示と思いなすように我々の心意識を規定する対象のことである、と。』(斜体部分は原文では傍点つき)

*18 美術関係者には説明の必要のないくらい有名なプロジェクトで、ウェブで検索してみますと、日本からも「行った、見た、すごかった!」という人が何人かおられます。ただ、まだ工事中なのか、それとも完成したのかは、結局わかりませんでした。このプロジェクトの公式ウェブサイトもあるにはあるのですが、こちらは、表紙だけで中身はずっと工事中のようです。(http://www.rodencrater.org/)