輝く闇/コメント 10,11

*10 1984年製作のアメリカ映画で、通常は137分の短縮版で上映されるが、190分の特別版もある。監督のデヴィッド・リンチさん自身はこの映画は失敗作だと思っていたようですが、なかなかどうして、たいしたもんです。ビデオ屋さんでは137分の短縮版しか置いていないところが多いが(しかも最近、この版さえ駆逐される傾向にあり)、これはやはり190分の特別版で見るべきでしょう。独特の、悪夢か善夢かわからんような混沌世界を、映像として見せてしまっている……しかも、原作に呑まれずに。スターウォーズ6作は、ずいぶん明るいアポロン的昼の世界の物語ですが、このリンチさんの『デューン』は、見事に暗い、デュオニソス的夜の世界になっています。なお、『エイリアン』で美術を担当したH.R.ギーガー氏の作品集を見ると、『デューン』の美術設定ボードが出てくるので、彼が美術を担当する可能性もあったのかと思いますが、実際はやらなかったようです。彼が担当していたら、どんなものになったでしょうか? やってほしかったとも思いますが……。主人公のポウル・アトレイデは若きカイル・マクラクランが演じていますが、これはなかなかはまり役。脇もしぶい俳優で固められていて、砂漠の民、フレーメンの科学者役に、『偉大なる生涯の物語』でキリスト役を演じたスウェーデンの名優マックス・フォン・シドーが登場。スターウォーズのアレック・ギネスもそうでしたが、老人役は、映画の通奏低音としてきわめて重要ですね……。なお、『デューン』の映像化は、全く別の監督と俳優によるもの(おそらくTVシリーズ)もあって、最近ビデオ屋さんにはもっぱらこちらが置いてあるが、これは幻滅でした。主人公のポウル・アトレイデが、アメリカの不良みたいな感じで悲しい。今はこうでないと、アメリカでは受けないのでしょうか……。

*11 『デューン』の主人公、ポウル・アトレイデは『生命の水』を飲んで生死の境をさまようが、結局復活して<救世主>クイサッツ・ハデラッハとなる。これは、単に超人……というだけじゃなくて、時間と空間を超越した普遍的存在でありながら、しかも個的存在である……というのだからスゴイです。サンド・ワームの造りだすスパイス、メランジは、時空を超越させる力があって、『デューン』の物語世界では、宇宙旅行もこの方法で行われます。スペースギルドの宙航士(パイロット)は、このメランジから造られた薬品を飲んで時間と空間をねじまげて、遠く離れた宇宙空間を接続するのですが、ワープ航法を科学技術オンリーではなく、生命体の持つ力によってやってしまうというのは、なかなかユニークな発想ですね。もっとも、ギルドの宙航士は、その代償として、巨大な芋虫のような姿に変形してしまっているのですが……。リンチさんの映画『デューン』では、冒頭にこのギルドの宙航士が「機関車のように」登場しますが、けっこうすごい迫力。と同時に、なにか「もののあわれ」的なものも漂う。リンチさんの他の映画(『エレファントマン』など)に通ずる「映像的思想」を強く感じさせる場面になっています。