輝く闇/コメント 5,6

*5 私は私の中にいるのはわかりますが、ほかの人が、その人の中にいるのかどうか……? 多分、いるのでしょうが、もしかしたらいないかも。昔読んだマンガ(タイトルも作者も忘却)で、野球じゃなくて相撲なんですが、なんと「エベレスト山」という力士が登場。この方は、名前からもわかるように、外国人力士です。もう40年も前の話なので、そのころ、外国人力士はいなかったと思うのですが、だとしたらまさに時代の先取り……で、この「エベレスト山」は、正体不明の力士でして、とにかく、やたらに強くて、やたらにデカイ。幕下だったのが、勝ちっ放しでぐんぐん上位に。あっというまに十両、幕内で、気がついたらもう横綱との対戦。……だけど、このエベレスト山君には奇妙なところがあって、ほとんど誰とも口をきかない。まあ、外国人だから……とみな思ってはいるが、それにしても、なにか人間らしさがあまり感じられない。取り口も、強いは強いがやたらハードボイルドで、非情、酷薄とさえ映る。とにかく、容赦なく「勝つ」のです。で、みなに一目おかれるが、みなに嫌われている。でも、本人は一向意に介さず、ひたすら勝ち続ける。ということで、とうとう横綱との対決となるわけですが……やっぱり、やたら強くて、横綱も押し込まれて危ない。でも、さすが横綱、渾身の力で盛り返し、いい勝負になる……ということで、詳しい展開はわすれましたが、長い長い対戦になって、ついに、エベレスト山の正体が露わに……エベレスト山の身体の一部が破れて、そこから鋼鉄の骨組みが覗いた! なんと、怪力エベレスト山君は、実はロボットだった……ということです。とすると、みんな、エベレスト山という外見の中に、エベレスト山という<もの>がいると思っていたのが、実はその中にはだれもいなくて、単なる機械装置でした……ということです。映画『エイリアン』の中に登場する科学者が、実はアンドロイドだった……という話と似てますが、「形の中に実体がある」という人間の無意識の思い込みは、実は、現段階の理性の限界であって、理性がそこから先を信仰にゆだねる、その地点なのかもしれません。押井守さんの『攻殻機動隊』で、ゴーストの有無を異常に問題にする視点と似ていないこともないですが……。この問題は、「ロボット(もっと一般的にマシン)に心はあるか?」というやっかいな問題にも関係しますが……自分と他人。その問題も、結局ここに帰するのでしょう。

*6 2004年製作のアメリカ映画。監督フランシス・ローレンス。キアヌ・リーブス主演で話題になった。天使と悪魔と人間のあまりよくわからない戦い。天使には性別がないので、大天使ガブリエルも無性として登場。しかし、元光の天使のルシファーが、マフィアかギャングのおっさんのような感じになっていて、おかしい。ルシファーは、あくまで端正かつ凄みをおびた姿で描いてほしいものです。